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遺言は、民法という法律に定められた方式に従って作成しなければなりません(民法960条、以下「§〇〇〇条」と記載します。)。定められた方式に違反した遺言は、原則無効となってしまいます。
遺言は、遺言者の生前に作成されるものでありながら、遺言者の死後にその効力が発生するという特徴があります(§985①)。そのため、遺言の内容を解釈するときには遺言者は既に亡くなっており、その内容について、本人に確認することができません。よって、遺言者の真意を確保するとともに、偽造・変造を防止するため、民法はこのような方式についての厳しいルールを定めています。
民法では遺言の方法について、以下の7つの方式が定められています。
「普通方式」として
一定の条件下のみで認められる「特別方式」として
令和4年度内における遺言公正証書の作成件数は11万1977件、令和4年度内における家庭裁判所での遺言書検認申立件数(公正証書遺言及び遺言書保管制度を利用した自筆証書遺言以外の全ての遺言が対象)は20万500件となっており、利用件数は公正証書遺言が圧倒的で、次点で自筆証書遺言の利用が多いと思われます。
筆者の経験上、公正証書遺言と自筆証書遺言のほか、③の秘密証書遺言、④の死亡危急者遺言が作成された事例は知っていますが、⑤伝染病隔離者遺言、⑥在船者遺言、⑦船舶遭難者遺言はいずれも作成された事例は耳にしたことすらなく、実務上ほぼ利用されていないものと思われます。
なお、近時のコロナ禍の影響により、施設入所中の高齢者や入院中の者について、面会謝絶の措置が取られる例が見受けられましたが、場合によっては⑤伝染病隔離者遺言の利用の検討の余地があると思われます。
民法上は、この方式が利用できる要件として「伝染病のため行政処分によって交通を絶たれた場所に在る者」(§977)としていますが、この要件を比較的緩やかに解釈する見解も多く(「新版注釈民法(28)相続(3)<補訂版>有斐閣(2002年)」参照。)、一般社会との交通が「事実上」なしえない場合も含まれると解されることから、コロナ禍における面会謝絶措置の下でも利用が検討されても良いのではないでしょうか。
前置きが長くなってしまいましたが、今回は利用件数が多い公正証書遺言と自筆証書遺言について、その方式と留意点について簡単に解説していきたいと思います。
②③④を見ると、口授→筆記→読み聞かせ・閲覧→承認という順序になっています。しかし現実問題として、当日公証役場で初めて口授を行い、その場で公証人が筆記するとなると大変不合理な方法となってしまいます。そのため実際には、事前の連絡にて公証人に遺言の内容が知らされ、あらかじめ公証人が遺言案を準備し、その後作成当日に遺言者から口授を受けるという方法が一般化しています。この点について判例(大判昭和6.11.27)は、民法の規定と異なる順序であっても全体として方式を踏んでいるのであれば、当該遺言を有効としています。
公正証書遺言の作成には、証人2人以上の立会いが必要です。証人は、公証人が正確に遺言の趣旨を記載していることの確認と、遺言が遺言者の真意に基づくものであることの確認という重要な役割が求められます。
そのため民法は遺言の証人の欠格事由(証人になることができない人)として、以下の3つを定めています(§974)。
・未成年者
・推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
・公証人の配偶者、4親等内の親族、書記及び使用人
先述のとおり、証人は公正証書遺言の作成において重要な責務を担っていることから、判断能力が不十分である未成年者は証人となることができません。
また、推定相続人や受遺者(相続人ではないが、遺言によって遺産をもらうことになる人)やその一定の親族は、遺言に対して利害関係を有しており、遺言者に不当な影響を及ぼす可能性があることから、証人になることができません。
さらに、冒頭で触れたとおり、公証人の職務を確認することも証人の責務の一つであることから、公証人から職務上の影響を受ける公証人の親族や書記、使用人も欠事由とされています。
遺言者の口授とは、本来遺言者が遺言の内容を公証人に直接口頭で伝えることをいいます。公証人はこの口授を通して遺言者の真意を確認しますので、公正証書遺言において最も重要な方式といえます。よって、他人から公証人に伝達されたのみの遺言は、この要件を充足せず無効となってしまいます。
ただし、遺言者が遺言の内容を一言一句すべて口頭で述べる必要はなく、例えば遺言の目的となっている不動産物件の詳細について、覚書などを公証人に提出して省略することなども認められています。
筆記・読み聞かせ・閲覧、承認・署名・押印について
公証人の筆記については、遺言者が述べた言葉を逐一そのまま書き写す必要はなく、遺言の趣旨が明確に記載されていれば十分とされています。遺言者と証人は、公証人の筆記が正確なことを承認した後に、各自署名・押印を行います。
最後に、公証人はその公正証書が上記の方式に従って作成されたものであることを付記し、公証人の署名・押印がなされて完成となります。
遺言者が①全文②日付③氏名を自書し、④印を押すこととなっています。
それぞれについて裁判例も交えながら詳しく解説していきます。
全文の自書について
自書とは文字通り、遺言者が自ら書くことを意味しています。これは、筆跡によって遺言者本人が書いたと判定でき、遺言者の真意であることが確認できるため、とされています。
日付の自書について
日付は、自筆証書遺言の作成日の特定の為に必要です。内容が矛盾する複数の遺言書が発見された場合には、その前後関係の特定のため特に重要になります。
日付は、年月日が特定できればよく、「60歳の誕生日」「(遺言者の)還暦の日」「令和〇〇年敬老の日」といった記載でも有効であると考えられますが、実際には「令和〇年〇月〇日」というように明確に年月日を記載すべきでしょう。なお、「昭和〇年〇月吉日」と記載された遺言書について、年月日の特定が不可能であるとして無効と判断された事例があります。
氏名の自書について
自筆証書遺言における氏名の自書は、遺言者本人を確認し、真意に基づく遺言であることを確保するための意味があります。自書する氏名は、正式な氏名のみに限らず、遺言者が日常用いている通称、雅号、芸名、屋号などでも有効とされていますが、無用な争いを避けるため、特別な理由が無い限り戸籍上の氏名とすることが無難でしょう。氏名を記載する場所については、文の末尾に記載されることが多いと思われますが、特に定めがありませんので、遺言書の中のどこかに記載があれば構いません。
押印について
日本では古くから、正式な文書には署名に加えて印を押すという慣習があります。よって、民法は自筆証書遺言の方式として、署名だけでなく押印も要求したものと考えられています。判例の中には、指印による押印が認められたものもあります(最判平成1.2.16)。また、押印に用いられる印鑑は、実印だけでなく認印でもよいとされています。
なお、特別な事情がある例外的な事例のため一般化することはできませんが、判例の中には、帰化したロシア人女性が作成した、署名はあるが押印のない自筆証書遺言について、サインの習慣しかなく、押印という日本の慣行になじんでいなかったという事情を斟酌し、例外的に有効と認めた事例があります(最判昭和49.12.24)。
このように、裁判所の姿勢としては押印を要件とすることに対する緩和傾向がみられますが、上記は特殊な事情下における事例判決であり、当然のことながら現行法が押印を要件としている以上、先の判断を一般化することはできません。
私見ですが、近時の日本においては、行政手続等における押印廃止の取組が進んでおり、重要書類や委任状などにおいても署名又は記名のみで足りる機会も増えてきました。もちろん、自筆証書遺言における押印の持つ本人確認性や真意担保性を軽視することはできませんが、押印に対する日本人の意識は、立法時において想定されていたものより希薄となっており、近時の社会情勢の流れも考えると、法改正が検討されてもよい時期ではないでしょうか。
自筆証書遺言の誤字訂正や変更についても、その方式について民法は厳しいルールを定めています。これは、遺言者の意思によらない他人の偽造・改ざんを防ぐためのものです。具体的な訂正の方法については、そのルールや注意点が多岐にわたるため、また別の記事にて解説したいと思います。
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