遺産分割とは?種類・方法と注意点について|元家庭裁判所職員・行政書士が解説

遺産分割とは? 種類・方法について わかりやすく解説
目次

相続が開始した際、相続人が一人であれば、当然その一人が全ての遺産を承継することになります(遺言がない場合)。相続人が二人以上いる場合、例えば夫が亡くなり、その妻と一人息子が相続人となる場合など、相続人が複数の場合には、原則として法定相続分に応じて遺産を共有することになります。

この状態を遺産共有といい、あくまで財産の帰属を確定させるまでの間の一時的・暫定的な状態であるため、遺産の中の個々の財産(預金、不動産、自動車など)の帰属を決めるための手続が必要になります。この手続を「遺産分割」といいます。

なお、本記事の解説は遺言がない場合を想定しており、遺言がある場合は原則その内容にそって分割が行われることになります。

遺産分割には下記の3つの種類があります(遺言による指定がある場合を除く)。

協議分割

遺産分割は、まず共同相続人全員による協議、すなわち話し合いにより行われることが原則です。
遺言書のように特別な方式は必要とされていないため、法律上は口頭によるものでも成立しますが、銀行の手続や不動産の名義変更のため、「遺産分割協議書」という書面に内容を記載し、全員が署名・押印する形が一般的です。

全員が一堂に会して話し合いを行うことが理想型といえますが、現実的には出来上がった遺産分割協議書(遺産分割証明書)を各自が確認し、持ち回りで署名・押印する方法が多くとられています。

調停分割

共同相続人間で遺産分割の協議が調わないとき、又は相続人の一人から応答がないなど協議することができないときは、家庭裁判所において「遺産分割調停」を行うことができます。

通常は、裁判官1名と専門的知見を有する民間人から選任された調停委員2名で構成される「調停委員会」が調停を行います。実務的にはうち調停委員2名が中心となって、共同相続人それぞれから意向などを聴き取り、合意できる内容を模索します。

審判分割

先述の調停によっても合意ができず不成立となったときは、自動的に「審判手続」に移行します。

なお、上記の調停分割を経ないでいきなり遺産分割の審判を申し立てることも不可能ではないですが、特段の事情がない限り、家庭裁判所によって調停手続に付され(付調停:家事事件手続法第274条第1項)ることになるため、実務上は調停手続が先行する場合がほとんどです。

審判手続においては、調停の場合と異なり、当事者双方の陳述の聴取や調停手続において提出された資料を審理した上で、審判機関である裁判官が終局決定を下します。

現物分割

遺産のうちの個々の財産、すなわち不動産、預金、自動車、貴金属などを、そのまま現物で各相続人に配分し、現物で分割する方法です。

この現物分割は遺産分割の原則的方法といえますが、この方法では法定相続分にちょうど対応した平等な分割はほぼ不可能であるため、その過不足を調整するため実務上は後述する代償分割と併用される場合が一般的です。

代償分割

一部の相続人に法定相続分を超える遺産を現物で取得させ、その代償として遺産を取得しなかったその他の相続人に対して金銭を支払うという方法です。

例えば相続人が長男と次男の2人で遺産が1000万円相当の土地建物のみである場合に、土地建物は長男が単独で取得し、その代償として長男から次男に法定相続分の500万円を支払うという例が考えられます。

換価分割

遺産を売却し金銭に換価し、その代金を分配する分割方法です。

相続人全員の合意による任意売却換価と競売による換価の2種類があり、競売によった場合は一般的に任意売却より金額が低くなり手続の時間もかかることから、可能であれば任意売却を先行させることになります。

遺産分割は遺産共有状態を解消し、その個々の財産を帰属させることを目的としていることから、通常は1回の手続で全ての遺産を分割することが望ましいとされています。

しかし、実務上では遺産の一部については争いがあり訴訟が継続しているなどその確定を待たなければならないような事情があり、全ての遺産について一度の遺産分割で終局させることが難しい場合もあり、ここに遺産の一部のみについて分割をすることの意義があります。

協議・調停による一部分割

協議・調停による一部分割においては、当然一部分割について相続人全員の合意があることが必要です。
一部分割協議が成立すると、当該一部の遺産については帰属が確定し、後に残余財産の分割をすることになった際に当該一部については分割のやり直しができないことに注意が必要です。

また、当初の一部分割の取り分が後の残余財産の分割の際に考慮されるのか、あるいは考慮されず残余財産のみ独立して分割すべきものなのか、一部分割の段階で明確に合意しておくことが望ましいでしょう。

審判による一部分割

協議・調停による一部分割については共同相続人全員の合意によって行われるため、特にその必要性などは求められていません。

しかし、審判による一部分割については、相続人の意に反して行われる場合のあるため一定の要件が求められます。すなわち、①一部分割をすることについて合理的な理由があること②一部分割によって遺産全体の分割に支障がないことが必要です。遺産の一部分割の審判があった場合、さらに残余財産についても分割を求める場合は別途審判の申立が必要です。この点は協議・調停による一部分割の場合と同様です。

遺産分割については、相続人は他の相続人の意に反していたとしても、その分割の協議・調停・審判を請求できることが原則です。
ただし、遺産分割の前提について訴訟が継続している場合など即時に分割することがかえって混乱を招く場合、遺産分割の禁止をした方が共同相続人間の理にかなうこともあります。

そこで民法では、下記の場合に限り、遺産分割の禁止を認めています。

遺言による遺産分割の禁止

被相続人(相続において亡くなった人のこと)は、遺言で、相続開始時から5年間以内の期間を定めて、遺産分割を禁止することができます。

このような遺言がある場合、相続人は他の相続人に対して遺産分割の協議を請求することも、調停・審判の申立をすることも許されず、遺産共有の状態が継続することになります。

ただし、遺言執行者がある場合を除き、上記遺言の存在を了知した上で、共同相続人全員が合意した上で遺産分割を成立させた場合は有効になると解されています。

協議・調停による遺産分割の禁止

遺言の場合と異なり法律上に明文の規定はありませんが、共同相続人間における協議・調停において遺産分割禁止の定めも認められています。禁止することができる期間については、遺言の場合に準じて、5年を超えない期間を定めることが必要であり、これを超える期間を定めたとしても5年間のみ有効です。

また、この禁止期間は更新することができますが、更新後の期間についてもこれまた5年を超えない範囲で定める必要があります。

審判による遺産分割の禁止

家庭裁判所は、遺産分割の審判において特別の事由があるときは、5年以内の期間を定めて、遺産分割を禁止することができます。

ここにいう「特別の事由」とは、例えば相続人となり得る胎児がいる場合など、当面の間遺産を分割しない方が共同相続人全員にとって利益があるといえる客観的状況にあることをいいます。


まずは小さなことでも
どうぞお気軽にご相談ください

    必須 お名前

    必須 フリガナ

    任意 メールアドレス

    必須 電話番号

    必須 ご相談内容

    任意 ご返信方法

    プライバシーポリシーを必ずお読みください。
    上記内容に同意頂いた場合は、確認画面へお進み下さい。

    よかったらシェアしてね!
    • URLをコピーしました!
    • URLをコピーしました!
    目次