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未成年後見制度とは、親権者が亡くなったり、服役や障害等により親権を行うことができないときに、未成年者に「未成年後見人」を付し、その未成年後見人が親権者に代わって財産管理や監護・教育の義務を果たすことによって、未成年者の保護を図る制度です。
主に認知症高齢者を対象とする成年後見制度においては、認知症や障害等により本人の判断能力が低下した際に、本人や親族からの申立てを受けて家庭裁判所が本人の判断能力についての診断書や面接によって調査を行い、成年後見制度の利用が相当と認められた場合のみ、後見開始の審判がなされ、それと同時に成年後見人が選任されます。
これに対し未成年後見制度は、冒頭に挙げた例のような親権者の死亡などの事由があれば家庭裁判所の審判を待たずして自動的に未成年後見が開始します。これは未成年者は単独で有効な法律行為を行うことができないという民法の規定があるため、本人の判断能力にかかわらず適切に親権を行使できる親権者がいない場合は保護が必要になるという点から生じる違いです。ただし、未成年後見人については後述する家庭裁判所の審判等によって選任されるため、未成年後見が開始しているが未成年後見人がいないという空白の期間が必ず生じることになります。
未成年後見を利用する典型例として、事故等により親権者である両親が同時に亡くなり、相続や保険金請求の手続のため未成年後見人が必要な場合が考えられます。
先述のとおり、未成年後見は親権者の死亡等によって自動的に開始しますが、親族等が家庭裁判所に申立てをしない限り未成年後見人は選任されず未成年後見人不在の状況が続くこともありえます。親権者を失った未成年者であっても、特段何らかの法律的な手続等が必要でない場合には、事実上祖父母などの親族に引き取られ保護を受けていれば未成年後見人が必要ない状況もあるためです。
もっとも現実的には、未成年者の子を持つ両親というのは一般的に働き盛りの年齢であり、それなりの財産があり生命保険をかけている場合も多いため、冒頭の例のように相続手続・保険金請求のため未成年後見人が必要になるという状況は多く考えられます。
‘‘民法第八百三十八条 後見は、次に掲げる場合に開始する。
1未成年者に対して親権を行う者がないとき、又は親権を行う者が管理権を有しないとき。(後略)‘‘
未成年後見開始原因の典型例です。
事故等により両親を同時に失った場合には未成年後見が開始することに疑いはありませんが、問題となるのは父母が離婚しており単独親権者となっている母が亡くなったような場合です。
このような場合は、
の4つがあります。
近時の裁判例をみると、裁判所は未成年後見人の選任の前後を問わず父への親権者変更が可能とする考え方(無制限回復説)をとっており、離婚後単独親権者の死亡は未成年後見開始の原因になると考えられています。
近時においては児童虐待に関するような事件も報道され問題意識が高まっており、虐待・育児放棄に起因して親権者が適切な監護養育ができないことも未成年後見開始原因としては重要な意義を持っています。
詳細な説明は割愛しますが、親権者が親権を行うことができない場合に、親権喪失の審判(民法834条)、親権停止の審判(民法834条の2)、親権辞任の審判(民法837条)がなされることによって、親権者が生存しながらも未成年後見が開始する場合もあります。
裁判例においては、親権者が服役中の場合(水戸家裁土浦支部審判昭和35.7.19)、親権者が重度の障害を患っている場合(札幌家裁審判昭和56.3.16)、その他親権者が行方不明の場合など、親権者が親権を行使できない状態にあるときも未成年後見が開始するものとされています。
未成年後見人は、下記の2つの方法で決定されます。
なお、従前は未成年後見人は1人でなければならない旨の規定がありましたが(民法旧842条)、平成23年の法改正により同規定が削除され、未成年後見人は複数人でも良いとされました。
‘‘民法第八百三十九条 未成年者に対して最後に親権を行う者は、遺言で、未成年後見人を指定することができる。ただし、管理権を有しない者は、この限りでない。(後略)‘‘
親権者は、遺言によって未成年後見人及び未成年後見監督人を指定することができます。未成年後見監督人とは、未成年後見人の財産管理などの職務遂行を監督し、横領や不正な行為を防止する役割を担っています。
未成年後見人の指定は、必ず遺言によって行わなければなりません。遺言の方式は限定されていませんので自筆証書遺言、公正証書遺言いずれでも良いですが、その重要性から公正証書遺言で行うことが相当でしょう。
未成年後見人指定の遺言は、遺言者である親権者の死亡によって効力を生じます。親権者の死亡と同時に指定された者は未成年後見人に就任し、その意に反していたとしても就任を拒絶することはできません。ただし、正当な事由がある場合は家庭裁判所の許可を得て事後的に辞任することは可能です(民法844条)。
前記の遺言による未成年後見人の指定がない場合は、親族等の請求を受け、家庭裁判所が未成年後見人を選任します。
この請求をすることができる者の例として、未成年者本人、未成年者を養育している里親・施設長、児童相談所長(児童福祉法33条の8)、生活保護の実施機関(生活保護法81条)などがあります。
‘‘(未成年後見人の選任) 民法第八百四十条 (前略)
3.未成年後見人を選任するには、未成年被後見人の年齢、心身の状態並びに生活及び財産の状況、未成年後見人となる者の職業及び経歴並びに未成年被後見人との利害関係の有無(未成年後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と未成年被後見人との利害関係の有無)、未成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない。‘‘
未成年後見人の選任については家庭裁判所の専権事項とされていますが、民法には上記のような基準が示されています。基本的には成年後見人の基準と同一の規定となっていますが、未成年後見人独自の選任基準として「未成年被後見人の年齢」が明示されています。
成年後見人の選任にあたっては、主に被後見人は精神的に十分成熟した高齢者であることが想定され、年齢による心情の差異などは大きくない(もちろん性格の個人差などはありますが)と考えられるものの、未成年後見人の選任については、未成年被後見人が乳幼児なのか、思春期真っ只中の13,14歳であるか、はたまた成人直前の17歳であるかなど、未成年被後見人の年齢によりその任務や未成年後見人としての職務期間が大きく異なるため、「年齢」という未成年後見制度特有の重要な要素が選任基準として定められています。
未成年後見人の職務については、成年後見人と同じく大きく①財産管理②身上監護の2つに分けられます。このうち①の財産管理については、成年後見人の職務と大きく変わるところはないため、また別の機会に解説したいと思います。
②の身上監護については、成年後見人の職務と大きく異なります。
‘‘(未成年被後見人の身上の監護に関する権利義務) 第八百五十七条
未成年後見人は、第八百二十条から第八百二十三条までに規定する事項について、親権を行う者と同一の権利義務を有する。ただし、親権を行う者が定めた教育の方法及び居所を変更し、営業を許可し、その許可を取り消し、又はこれを制限するには、未成年後見監督人があるときは、その同意を得なければならない。‘‘
未成年後見人は親権者のいない未成年者の法定代理人であることから、親権者と同一の権利義務、いわゆる親権を有します。具体的には、監護及び教育の権利義務(§820)、子の人格の尊重(§821)、居所指定の権利義務(§822)、職業許可権(§823)があります。
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