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「失踪宣告」とは、行方不明となっている者(以下「不在者」といいます。)の生死が一定期間明らかでないとき、利害関係人の請求により、家庭裁判所より失踪の宣告がなされ、その宣告を受けた者が死亡したとみなされる制度です。
不在者の生死不明の状態が継続すると、法律関係が不確定となり、残された者の生活に不都合を生じさせることがあります。以下、典型例を挙げます。
なお、普通失踪の要件である7年間を待たずしても、配偶者の生死が三年以上明らかでないときは、残された配偶者は、家庭裁判所に対して離婚の訴えを提起するという方法もあります(民法770①三)。
これらのような場合に不在者について失踪宣告を受けることで、残された家族は相続手続が前に進み、婚姻が解消されることによって残された配偶者には新たに再婚の途が開けるなど、失踪宣告は残された人の人生に関わる大きな影響を与える非常に重大な手続であるといえます。
失踪宣告には、下記の2種類があります。なお、実務的には普通失踪の割合が圧倒的で、特別失踪は非常に稀な手続となっています。
不在者の生死が7年間明らかでないとき、利害関係人の請求により、家庭裁判所は失踪の宣告をすることができます。7年間という期間の要件を充足している限り、失踪するきっかけや状況について特に条件はありません。
戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、その危難が去った後1年間明らかでないとき、普通失踪と同様に、利害関係人の請求により、家庭裁判所は失踪の宣告をすることができます。
戦地や沈没した船舶など、あまり現代では縁のなさそうな物騒な単語が並んでいますが、実際に失踪宣告のうち特別失踪に該当するものは少なく、あるとしても近年では船舶事故や天災などに起因するものに限ると思われます。
先述したとおり失踪宣告を請求することができるのは「利害関係人」ですが、これは失踪宣告について法律上の利害関係を有する者をいい、具体的には、配偶者や子などの法定相続人、父母、親権者、後見人などが該当するとされていますが、相続関係のない単なる親族や、失踪宣告を受ける者の債権者など取引の相手方というのみでは、一般的には該当しないとされています。
なお戦地死亡宣告の場合、厚生労働大臣も申立てが可能ですが、現代ではほぼ該当例はないものと思われます。
申立は原則として不在者の従来の住所地を管轄する家庭裁判所に対して申立書を提出して行います。基本的には住民票上の住所地を基準に判断されますが、必ずしも住民票上の住所でなければならないことはありません。
従来の住所地が不明である場合は、不在者の財産(例えば自宅不動産)の住所地を管轄する家庭裁判所又は東京家庭裁判所にも申立てることができます。
家庭裁判所は、普通失踪の場合は不在者の生死が7年間明らかでないこと、特別失踪の場合は危難が去った後1年間不在者の生死が明らかでないことという要件を満たしているかを調査します。
具体的には、最後の音信があった年月日を特定し、そこからそれぞれ所定の期間の間不在者の生存がうかがえる事情が存しない場合は、要件を満たすと認定することになります。
不在者の失踪を証する資料としては、警察署に行方不明届を提出している場合は警察署長の発行する行方不明者届受理証明書、事故などに起因する特別失踪の場合は事故を取り上げた新聞記事や消防による捜査報告書などが考えられます。
これらのような公的な資料が存しない場合は、私的な郵便物やメール等の履歴、関係者からの失踪前後の不在者の状況などを聴き取ることによって、一資料とします。
また家庭裁判所は「調査嘱託」という手続で、不在者について、検察庁に対する前科照会、警察に対する運転免許照会、ハローワークに対する職歴照会などを行うことによって、不在者の生存がうかがえる情報がないかを調査します。
上記調査の結果、不在者の生死が判明しなかったときは、家庭裁判所は次の事項を裁判所の掲示場での掲示及び官報によって公告します。官報とは独立行政法人国立印刷局が発行する機関紙で、いわば日本政府が発行する新聞のようなもの、というイメージです。
公告の期間については、普通失踪の場合は3か月以上、特別失踪の場合は1か月以上を設けることが要件となっています(家事事件手続法第148③)。
公告期間内に不在者及び不在者の生死を知る者からの届出がなく、不在者の生死が判明しなかった場合には、家庭裁判所は失踪宣告の審判をします。審判が確定することにより不在者について相続が開始します。
家庭裁判所により不在者の本籍地の市区町村長あてに、失踪宣告の審判が確定した旨の通知が行われるとともに、申立人から市区町村役場に失踪宣告の届出がなされ、不在者の戸籍に失踪宣告の審判が確定した旨及びみなし死亡日が記載され、この記載のある戸籍謄本等により相続手続等を進めることができます。
以下のいずれかの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪宣告の取消の審判をしなければなりません。
本人が生存していた場合は失踪宣告の取消しが必要なことはイメージしやすいですが、異なる年月日に死亡していたことが明らかになった場合も、不在者とその親族の死亡日の先後によっては相続関係に影響を及ぼすことがあるため、このような申立てが認められています。
失踪宣告の取消しは婚姻関係に非常に大きな影響を与えることがあります。以下具体例を挙げます。
夫不在者Aは、妻Bの申立てにより失踪宣告の審判が確定しました。
失踪宣告の効果として夫Aは死亡したとみなされるため、当然にAB間の婚姻も解消されることになります。
数年後、Bは後夫Cと再婚をします。しかしこのタイミングで実は生存していたAが自ら失踪宣告の取消の審判を申立て、これが認容され失踪宣告の取消が確定することになりました。
この場合、妻B及び後夫CがともにAの生存を知らなかったのであれば、BC間の婚姻は有効となり、前夫Aとの婚姻関係が復活することもありません。
しかし妻B又は後夫Cのいずれか一方でも前夫Aの生存を実は知っていた場合、AB間の婚姻関係が復活していしまい、前夫AとB・後夫CとBの重婚状態が発生してしまうため、あとは当事者間で解決を図っていくほかありません。
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