養子がいる家庭の相続で「遺言がない」と何が起きるのか

養子がいる家庭の中で「遺言がない」と何が起きるのか

実際に揉めやすいポイントと生前にできる対策

「養子がいる場合、相続は静かに進まない?」
養子縁組をしているご家庭から、相続について相談を受ける際、多くの方がこうおっしゃいます。「養子にしているので、相続は特に問題ないと思っていました」「家族関係は悪くないので、揉めることはないはずです」

しかし、実際の相続の現場では、養子がいる家庭ほど、相続が静かに進まないケースが少なくありません。それは、養子縁組そのものが問題なのではなく、相続の場面で“前提のズレ”が生じやすいからです。

この記事では、

  • 養子がいる家庭で相続が止まりやすい理由
  • 遺言がないことで起こりやすい具体的な問題
  • 揉めないために、生前に考えておくべき視点

を、制度論だけでなく、実務の感覚に近い形で解説します。

目次

養子縁組をすると、養子は法律上の子どもとなり、実子と同じように相続人になります。
この点だけを見ると、「法律で守られているのだから安心だ」と思われがちです。
しかし、相続で問題になるのは、権利があるかどうかではなく、どう分けるかを誰が決めるのかという点です。

遺言がない場合、相続は相続人全員の話し合いによって進められます。
養子がいる場合、この「話し合い」が想像以上に難航することがあります。

養子がいる家庭で遺言がない場合、次のようなズレが起こりやすくなります。

① 相続分についての認識のズレ

実子は「自分たちが中心だ」と考え、養子は「法的には平等なはずだ」と考える。
どちらも間違いではありませんが、前提が違うため、話し合いが噛み合わなくなります。

② 養子縁組の意味が共有されていないズレ

なぜ養子縁組をしたのか。誰のための縁組だったのか。
本人が生前に説明していない場合、相続人それぞれが「自分なりの解釈」をしてしまいます。

③ 「本人の意思」が見えないことによるズレ

遺言がないと、相続人は「本人ならどうしただろうか」を想像しながら話し合います。
しかし、想像は人によって異なります。
結果として、「自分の考え=本人の意思」になってしまい、対立が深まることがあります。

遺言というと、「財産の分け方を書くもの」と思われがちです。
しかし、養子がいる相続では、遺言の役割はそれ以上に大きな意味を持ちます。

遺言があることで、

  • 相続の主導権が「相続人」ではなく「本人の意思」に戻る
  • 話し合いの土台が一つに定まる
  • 感情論になりにくくなる

という効果があります。

特に養子がいる場合、「誰をどれだけ大切に思っていたか」を言葉として残すことが、相続人同士の衝突を和らげることがあります。

「遺留分があるなら、遺言を書いても意味がないのでは?」
そう思われる方もいます。

遺留分とは、一定の相続人に対して、最低限保障されている取り分のことです。実子も養子も、子どもである以上、この権利を持ちます。確かに、遺言があっても、遺留分を完全に無視することはできません。

しかし、遺言があることで、「どこまでが本人の意思だったのか」「なぜその分け方にしたのか」が明確になります。その結果、「権利は主張するが、争うところまではいかない」という着地点になるケースも多くあります。

実務でよく聞く誤解の一つに、「遺言があると、かえって揉めるのではないか」というものがあります。

実際には、揉めている相続の多くは、遺言がないケースです。

遺言が原因で揉めるのではなく、「説明のない遺言」「唐突な内容の遺言」が問題になることが多いのです。
養子がいる場合は特に、遺言の内容だけでなく、その背景を伝えることが重要になります。

養子がいる家庭で相続を考えるとき、必ずしも「すぐに遺言を書かなければならない」わけではありません。

大切なのは、次のような準備です。

  • 養子縁組をした理由を、自分の中で整理する
  • 家族構成と相続人を一度書き出してみる
  • 自分が大切にしたい価値観を言葉にする

この整理ができていれば、遺言を書くかどうかの判断も自然と見えてきます。

養子と実子がいる家庭で、本人は「家族関係は良好だから大丈夫」と考え、遺言を残しませんでした。

亡くなった後、相続人同士で話し合いを始めたものの、誰が主導するのか決まらず、話が進まなくなりました。結果として、「争ってはいないが、何も決まらない状態」が続き、相続手続きが長期間止まってしまいました。

これは、遺言がなかったことで、「判断の軸」が失われた典型的な例です。

養子縁組は、家族の形を広げる制度です。
しかし、相続の場面では、その広がりが整理されないまま残ることがあります。

遺言は、単に財産を分けるための書類ではありません。
養子がいる家庭にとっては、「本人の意思を明確にするため」「相続人同士の負担を減らすため」「家族関係を壊さないため」の「道しるべ」になります。

もし、「うちは養子がいるけれど、相続は大丈夫だろうか」と少しでも感じたなら、結論を出す前に、一度状況を整理してみることをおすすめします。

養子・相続・遺言は、書く・書かないの前に、考え方を整えることが何より重要です。


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